「ちょっと何するのよ!」
「久美ー。だから新聞部の見学なんてやめようって言ったのに。もう帰ろ!」

 放課後の教室を回り、ようやく見つけた暇そうな新入生2人。何とか部活見学へ連れてきて、副部長の千香に活動方針を説明してもらっていた。
 が、話途中で2人とも逃げるように部室を出ていった。

「どーしたの?! 待って、待ってくれって……」

 慌てて追いかけたけど、既に2人は遠くまで走り去っていた。

「おーい、千香ー。何やらかしたんだー?」

 千香が説明中、俺は新入生へ見せるための新聞を用意していたから、何が起こったか見ていなかった。

「いやー、あのね。大したことじゃないんですよ? ちょーっと、ショートカットの娘がロリロリで可愛かったからさー」
「可愛かったから、何?」 
「いやー、思わず抱きついちゃったんだよねー」
「抱きついちゃったんだよねー……じゃねぇよ」

 まったく、こいつは……。 
 女子生徒を連れてくれば抱きつき、男子生徒を連れてくるとやる気を無くす。副部長のくせに、今の部活の状況がわかっているのだろうか。
「綾瀬部長ー。こいつ、何とかしてくださいよー」
「あら、いいじゃない。自分の欲望に素直なことは良いことよ」
「いや、そんなことに素直になられても」

 部長の綾瀬先輩。新聞部唯一の3年生。
 この人しか3年生が居ないので、俺と同じ2年生の近藤千香が副部長をやっていたりする。
「良太も抱きついてみたらいいんだよー! ふっわふわでとっても柔らかいよー!」
「その一瞬の『ふっわふわ』を体験するために、高校生活を捨てる気にはなれねぇよ」

 千香が嬉しそうに、両腕で自分を抱きしめるようなジェスチャーをする。
 彼女は普段から前髪で両目が隠れているため、どこを見ているかはわからないけれど、ニヤニヤしているのはわかる。
 そして、男の俺が千香と同じことをすると、間違いなく変態扱いされて残りの高校生活を日陰で過ごすことになる。
 いや、下手すれば一発退学で高校生活強制終了かもしれない。

「そうそう、さっきのもう1人のコも良かったんだよ?」
「聞いてねぇよ」
「ねぇ、良太。次はツインテールが似合いそうなコ連れてきてよ!」
「お前、この新聞部に新入生を連れてくることが、どれだけハードル高いか分かってんのか?!」

 残念ながら、スポーツ学校である我が高槻東高校で、非運動系の部活は立場が弱い。
 新入生の大半が中学時代に何らかのスポーツを経験していて、入学前から入る部活を決めている者が多いからだ。

「ツインテールの美少女も良いけど、私は可愛い美少年でも良いわよ」
「えー、でも綾瀬部長。男は狼って言いますよー」

 お前が言うか。
「それは、人によるわねー。良太君なんか、同じ部屋に女子高生が2人も居るのに、何も出来ないじゃない」
「それもそーですね」

 何も出来ないんじゃなくて、何もする気が起きないと言うか……。
 いや、これは口に出さないでおこう。
「ほらほら、良太君。おねーさんがいろいろ教えてあげるわよ」

 綾瀬先輩がセーラー服のスカーフを外しながら近寄ってくる。
「先輩……冗談ですよね?」
「あら、冗談だと思う?」

 1つしか年齢が違わないのが、不思議なくらい妖艶な魅力を持つ綾瀬先輩。
 きっと、あの趣味がなければ凄くモテると思うんだけど……。
「邪魔するわよ」

 突如、開けっ放しのドアから女子の声。

……

「ちょっと! 教室で何してるの!」

 最悪のタイミングで、最悪の人物が訪れていた。