「平井良太……ちょっと、風紀委員まで来なさい」

 新聞部で部員獲得のための会議を行った翌朝。
 校門でさよちゃんが俺を一目見て、腕を引っ張り歩き出す。
 まぁ、無理もないか……もし、俺が風紀委員だったら、間違いなく今の自分に指導する。
 何故なら、今の俺の姿が金髪ツインテールにメイド服だから。


「で、あんたは何で、そんな格好で新聞配ってんのよ?」

 風紀委員室で、机を挟んでさよちゃんと対峙。今の俺は、刑事ドラマなんかで取り調べを受ける犯人みたいになっている。
「あー、昨日さよちゃんが部員の話してくれたよね」
「うん」
「あの話を千香にしたら……新聞部のインパクトが弱いって話になってさ」

 最初は、俺が新聞を手配りすると提案。それだけだとインパクトが弱いって、コスプレしろって話に。
 もちろん反対したけど、そんな普通の意見が千香に通るわけもなく。
「それで、その衣装?」
「あぁ。せめて戦場カメラマン風にって言ったんだけど、よく考えたらそんな衣装あるわけなくてさ」
「メイド服はあったんだ」
「あー、何故か綾瀬先輩が持ってた」

 俺としては、新聞部のロッカーからメイド服が出てきたことに一番驚いたんだが、一緒に金髪ツインテールのカツラを出されたことに比べれば、些細なことだった。
「まぁ、部員勧誘期間ってことで、大目に見るけどさ……ちょっと方針変えた方が良いんじゃない?」
「だよなー」

 この期間は、サッカー部やバスケ部などの運動系の部活も、ユニフォームでビラ配りをしている。
 メイド服がいくら目立っても、所詮は女装。ソフトテニス部女子のユニフォーム――スコートとサンバイザーの組合せには勝てなかった。
「そもそも、新聞部は他の部に無い、有利な点がいっぱいあるじゃない」
「……部長と副部長の変態っぷり?」
「それは何か有利に働くものなのかしら」

 ちょっとした冗談のつもりだったけど、さよちゃんの目が冷たい。
「ごめん、冗談です。うちの部に何か有利な点ってあったっけ?」
「いっぱいあるわよ。まず、学校内で新聞を発行していること」
「まぁ、新聞部だからね」

 新聞部が新聞を作らなければ、何部なのか本当にわからない。
「新聞って、紙だけじゃないでしょ」
「んー、校内放送とかってこと?」
「それじゃ放送部じゃない」

 まぁ、うちの学校に放送部なんて無いので、競合することはないけど、ちょっと違う気がする。
「せっかくうちの学校で唯一パソコンが使える部なんだから、WEB新聞とかやってみたら?」
「WEBかぁ……俺パソコンとか全然わからないしなー」

 原稿執筆のために綾瀬先輩が。イラストを描いたりするのに千香が、それぞれ部活でパソコンを使っている。
 校正用にも1台パソコンが割り当てられているけど、そもそも機械が苦手な俺。なので、原稿をプリントアウトして、紙で誤字脱字チェックをしていたりする。
「そこは誰かに協力してもらえばいいじゃない。少なくとも、そのメイド姿よりかは良いと思うけど」

 メイド服については、同感。もう2度と着たくない。
 ただ、うちの学校はパソコン部なんて無いし、パソコンに詳しい人なんて居るんだろうか。

「まぁ、WEBってのは一例よ。とりあえず、方針は変えてよね」
「うーん、わかった」

 WEB新聞……ベタだけど、有効であるからこそベタに成るわけで。
 とりあえず、メイド服を脱ぎ、放課後にWEB新聞の相談をしてみることにした。