「WEB新聞? いやよ。めんどくさいし、ベタだし」
放課後、早速WEB新聞の提案をしてみた結果。千香から予想通りの返事が来た。
「でも、部員獲得にも繋がるぜ」
「部員獲得って言うなら、何で今日メイド服で新聞配らなかったのよ」
「配ったよ! 配ったけど、瞬殺で風紀委員に強制終了させられたさ」
「そこは、上手くやりなさいよ」
相変わらず、千香が無茶な要求を言ってくる。
「というわけで、綾瀬部長すみません。お借りしたメイド服はお返しします」
「そうなの? じゃあ、申し訳ないんだけど、クリーニングにだけ出してもらえるかしら」
――っ!
クリーニング。
俺があのメイド服をクリーニング屋に持って行き、店のおばさんに「何この服。いったい、何に使っているのかしら?」とか心の中で思われつつ、引きつった愛想笑いで受け付けされてこいというのか。
そして、クリーニングが終わった後も、また違うおばさんに「あらいやだ。最近は高校生がメイド服なんて持ってるのね。まぁやらしい」何て思われつつ、受け取らなければならないのか。
「千香。一緒に行ってくれ……」
だめだ。俺が千香と一緒にメイド服を持って行こうものなら、「まぁ、このコたちったら若いのにマニアックね」なんて、わけのわからない想像をされるかもしれない。
そして、俺たちが店を出た後に、店員同士でニヤニヤされようものなら……俺には無理だ。耐えられない。
いや、そもそも店員がおばさんとは限らない。
もしも、高槻東高校の誰かがクリーニング屋でバイトしていたら、「平井良太はメイド服を着用するのが趣味」なんて濡れ衣を着せられるかもしれない。
今なら、部員勧誘用のコスプレで通るかもしれないが、これ以上何かあると俺の高校生活が崩壊するかもしれない。
だめだ……詰んだ。
「綾瀬部長」
「あら、なあに?」
「このメイド服、買い取らせてください」
そうだ。もう、この服を買い取って処分しよう。それならクリーニングに出さなくても良い。
「ついに、良太が覚醒した!」
「良太君。もっと本格的な、ディティールにこだわったの紹介するわよ」
違う……何かが違う。
「綾瀬先輩。やっぱり基本は黒ですけど、オレンジとかも良いんじゃないでしょうか?」
「水色も良いわよ。あと、カチューシャも良いけど、リボンもありね」
……
どこからともなく取りだしたメイド服のカタログで、盛り上がる千香と綾瀬先輩。
2人が俺の話を聞いてくれるまで1時間かかった。
そして、何とか俺の発言の意図を伝え、クリーニングじゃなくても、家庭用の洗濯機で良いと了承を貰えた。
ただ、家族に見つかったら何て言い訳すればよいのやら。
大幅に脱線したけれど、メイド服を丁寧に畳んで鞄の奥底に隠し終わったところで、ようやく本題となるWEBの話になった。