「で、本題のWEBの件なんだけどさ」
「あ、まだその話するの?」

 どうやら、千香の中では完結していたらしい。
「あぁ、やっぱり部活存続させたいし」
「それはわかるけど、WEB新聞って具体的に何をするつもりなの?」
「えっと、それは今の紙の新聞をスマホやタブレットから見れるようにして……」

 しまった。具体的な内容は考えてなかった。
「それで、どれくらいの効果が得られるの? WEB化するために必要な維持費とかはどうするの?」

 維持費? WEB新聞を作るのに、パソコン以外に必要なものがあるんだろうか。
「千香……維持費って?」

 とりあえず、おそるおそる聞いてみた。
「まず、サーバはどうするの? ドメインは? この部室にはLANとか敷いてないけど、どうするつもり?」

 凄い勢いで千香が俺に詰め寄ってくる。
 これは以前に、千香の描いてたイラストに「このキャラ何?」と不用意に聞いてしまった時の再来だろうか。
 あの時もなだめるのが大変だった。
「ちか……」
「何よ」
「いや、近いって言いたかったんだけど」

 背が低く細い身体の割に、意外と存在感のある膨らみ。
 その体温が俺に伝わるんじゃないかと思えるほどに、千香が近づいてきているのだが、興奮しているのか気づいていない。
「――きゃっ!」

 普段の彼女からは想像できないような、乙女チックな悲鳴をあげ、千香が俺から離れる。
「ごめん、とりあえず一度落ち着こうか」

 やばい。ちょっとドキドキしている。この俺が、この千香に。
 相手は千香だぞ。2次元と可愛い女子が大好きな、少し痛い少女。
 相変わらず、前髪で千香の瞳は見えないけれど、こっちを向いているのはわかる。
 今、彼女はどういう心境なんだろうか。

 ただ、残念ながら先ほどの千香の言葉は全く理解できなかった。
 わかったのは、千香が相当パソコンに詳しいということ。そして、効果うんぬんは置いといて、千香の言う維持費問題をクリアしないといけないということ。

 大きく一度深呼吸。
 よし、平常心。

「綾瀬部長。部費って余裕あるんでしたっけ?」
「んー、パソコンはおねーさんと千香ちゃんの私物だし、紙とプリンタのカートリッジ代くらいしか支出がないから、大丈夫よ」
「なるほど。維持費って、いくらくらいかかるんだろ」

 やっぱり千香に聞くしかないのか? さっきは不覚にもドキドキしてしまったが、同じ失敗はしない……と思う。
「あのね、良太。そういうことは、顧問の橋長先生に聞けば良いと思うんだけど」
「あ……そうだね」

 予想外に、千香が先に答えをくれた。
 けど、俺はまともに千香の顔が見れなかった。