「失礼しましたー」

 職員室を出る。
 WEB新聞の課題としていた維持費。千香の言う、サーバとかドメインとか、よくわからないけど技術的なやつ。
 何故だかわからないが、顧問に話したら一発で解決してしまった。

 顧問からは、「待ってたよ。手続きしとくから頑張れ」の一言で終わってしまった。
 何で顧問の先生がWEB新聞のことを知っているのかわからない。
 こっそり、千香が手を回していてくれたんだろうか。さっきのは自作自演? いや、そんな感じには見えなかった。

「ただいま戻りましたー」

 釈然としないまま歩いていたら、すぐに部室に着いてしまった。
「良太君。橋長先生は何て?」
「いやー、学校のサーバと、無線ルータって言ってたかな? その一部を使えるように手続きしてくれるそうです」
「あら、やったじゃない。流石、橋長先生ね」

 橋長先生は定年手前のおじいさん。めったに部室にも来ないし、パソコンなんかも詳しくなさそうなんだけど……。
「良太、良かったじゃない」
「あ、あぁ」

 あれ? いつもの千香に戻ってる? それとも俺が勝手に舞い上がってただけなのか?
「とりあえずサーバが使えるようになったら、WEB新聞を公開するとして、WEBでどんなことがやりたいの?」
「それについては、おねーさんに提案があるわ」

 綾瀬先輩が急にやる気を出した。こういう時は、たいてい良くないことになるんだが。
「ふっふっふ。WEB新聞ということは、風紀委員のチェックなしに、自由に作れるわけよね」

 ……まさか。
「紙の新聞では出来ない、この学校のアンダーグラウンドを特集するわっ!」
「綾瀬部長! それです! それしかありません!」

 千香の目が輝きだした。
 やばい。これはやばいぞ。部員が一気に3人にまで減った、あの暗黒時代再来となる。

「じゃあ、おねーさんは取材に行って来るから、みんな後は適当にやっといて」
「任せてください!」

 いやいやいや、任せられないから。
「ちょっと、綾瀬部長。待ってください!!」

 叫んだものの、既に綾瀬先輩の姿はなく、部室で千香と2人きりにされてしまった。
 どうしよう。さっきの様子だと、いつも通りの千香のようにも見えたけど……。
 少し、千香の様子を見てみる。

 千香と目が合う。いや、正しくは合っている気がする。
 前髪で千香の目線がはっきりと見えないけど、間違いなく俺を見ている。

「ねぇ……良太」
「は、はい」

 千香が少しずつ近寄ってくる。
 その顔は少し紅くなっていて、興奮しているようにも見える。

「あのさ……言い難いんだけどさ」
「お、おぅ」

 また一歩、千香が近づいて来る。
 自分でもわけがわからないが、また胸がドキドキしだした。
 相変わらず千香の目は見えないけど、何故かつい唇をじっと見てしまう。 
 そして、千香の唇が僅かに開き、次の言葉が発せられる。
 
「男の娘の絵を描きたいから、メイド服着てモデルになって」
「却下!」

 やっぱり、いつもの千香だった。