さよちゃんと喧嘩した。
 いや、喧嘩ではないな。一方的にこっちが黒い感情をぶつけただけだ。

 自室のベッドの上。天井を見つめたまま、今日の出来事を振り返る。
「何で、新聞部に対してあんなに熱くなってしまったんだろう」

 誰に言うわけでもなく、自問自答する。
 何となく少し視線を動かすと、棚の上にあるバスケットボールが視界に入った。
「そう、部活なんかに熱くなると、ろくな事がないんだ。適当にやって、適当に周りに合わせとくくらいがちょうど良いんだ」

 無意識に右手で左肘を押さえる。
 何回投げても決して外すことなく、何度でも決める自信があった3ポイントシュート。
 もちろん、その自信に繋げるために練習を何万回も繰り返した。。

 チームの勝利のために、自分の成長のために、そして単純に好きなバスケのために練習に明け暮れた。
 だけど、その結果得られたものは何一つなかった。

 部活に対するチームメイトとの温度差、不協和音、そしてチームからの孤立。
 顧問は俺を試合に出すが、俺にパスを出すメンバーは誰も居なかった。
「くそっ! 何で今頃こんなこと思い出すんだ」

 電気を消して、そのまま眠ることにした。


 次の日。授業が終わって、即帰宅する。もう、部活に行く気分ではなかった。

 その次の日も、即帰宅。だが、これもそろそろ終焉だろう。

 また次の日。
「平井ー。橋長先生から呼び出しがかかっとるぞー」

 ついに来た。担任の先生から、放課後に新聞部顧問の橋長先生のところへ行くように言われてしまった。


 この高槻東高校は公立なのに伝統的なスポーツ強豪校。
 表立って明言されているわけではないが、部活動の参加がほぼ強制となっており、ほぼ全員が何らかの部活に所属している。
 そのため、2日連続部活をサボったことで、ついに顧問が動き出してしまった。

「失礼します」

 仕方なしに、職員室に居る顧問を訪ねる。
「平井ー、どーした。最近部活に出てないらしいじゃないか」
「えぇ、まぁちょっと」

 基本的に放置主義の顧問だが、それでも責任者。
 部活に出るようにという話と、何かあれば相談してこいと、ベタな話が10分ほどあり、ようやく解放される。
「そういえば、平井と仲の良い風紀委員の高木さん何だがな」
「いや、別に仲が良いわけではないですが」

 周囲から仲が良いように見えているのであれば、それだけ高木さんの演技が上手なんだろう。
「……そうか? お前らいつも和気藹々としてたじゃないか」
「気のせいですよ。で、その高木さんがどうかしたんですか?」
「あぁ、彼女はここ数日ずっと学校に来てなくてな。電話で理由を聞いても教えてくれんし、何か知らないかと思ってな」

 高木さんが学校に来ていない? もしかして、俺が一方的に言い過ぎて傷つけたからなのだろうか。
「あのコには、新聞部はかなり助けてもらってるだろ。あのコのおかげで新聞部が活動できているんだからな」
「それはどういう意味ですか?」

 橋長先生が言っているのは、毎週の原稿チェックのことだろうか。
 だが、先生から言われたのは、俺の知らない事実だった。