「お前、高木のこと知らないのか? 去年生徒会から新聞部を廃部にするように言われた時、必ず更生させると言って、あのコが新聞部の存続を訴えてくれたんだぞ」

 何だ? どういうことだ? 何か根本的に話しがズレている気がする。高木さんが新聞部を守ってくれた?
「どういうことですか?」

 頭が理解を拒否しているのか、同じ質問を繰り返してしまう。
「だから、高木が居なかったら、新聞部はもっと早く潰されてたってことだ」

 ……何か固いもので頭を叩かれたような感覚に陥る。
 彼女は、さよちゃんは本当に新聞部を良くしようとしてくれていたんだ。
「それは、本当ですか?」
「本当だよ。WEB新聞作る時だって、前もって高木君が私のところへ来て、手続き全部済ませていったし、風紀委員長代理として生徒会に出て、直接意見も述べている。
 何なら、生徒会顧問や風紀委員顧問の先生方に聞いてみれば良いんじゃないか?」

 橋長先生がここまで言っているんだ。きっと、真実なんだろう。
 それなのに俺は……さよちゃんを敵だと思い込み、一方的に責めてしまった。

 何故ちゃんと裏を取らずに、あんなことを言ってしまったんだろう。後悔の念が心を駆け巡る。

 時間を戻せるのなら、数日前に戻して自分を止めたい。
 以前とはまた種類の異なる黒い感情が俺を満たし、いっそ死にたくなる。
「何かよくわからんが、お前が落ち込むことと、高木が欠席していることが関係あるのか? あるなら何とかしてきてくれ」

 部活同様、面倒臭いことは生徒に任せる先生の悪い癖が出た。
 いや、確かにさよちゃんが欠席していることと無関係では無さそうだけど……俺はさよちゃんに何か出来るんだろうか。
 後悔と反省はしたが、謝罪は出来ていない。新聞部の評判を落として回っている風紀委員の対応も出来ていない。

 ただ、さよちゃんを悲しませただけで、俺は逃げてしまった。部活を投げてしまった。
 謝って、さよちゃんは許してくれるだろうか。千香や綾瀬先輩は今の俺をどう思っているんだろうか。

 職員室の片隅で1人ずっと考え込んでいたからか、気付くと他の先生方から注目されてしまっていた。
「平井! いいからお前は高木のところへ行って来い。ほれ、高木の家の住所だ」

 ……かなり強引にさよちゃんの家の住所が書かれたメモを握らされ、職員室を追い出された。

 俺にどうしろってんだよ。
 あまり生徒の寄り付かない、職員室前の廊下。誰が助けてくれるわけでもなく、ただ時間だけが過ぎていった。