学校から歩いて15分。
 住宅街の一角にあるマンション。この7階にさよちゃんが住んでいるらしい。
「お、こっから学校見えるんだ」

 マンションの柵の上から南東を眺めると、小さく学校が見える。
 今も部室では、きっと千香と綾瀬先輩が新聞を作っているんだろう。

 現実逃避を終え、少し廊下を歩く。
 703号室の扉に『TAKAGI』と描かれたネームプレートが掛けられている。
 間違いなく、さよちゃんの家だろう。
 目の前にあるインターホンを押せば、さよちゃんに会えるかもしれない。が、何を言えば良いのだろう。
 そもそも、俺はここに何をしに来たんだろう。
 何の策も無いのに、ただ自分の罪悪感を消したいがためだけに来てしまった。

「うーん……」

 扉の前を行ったり来たり。
 何も考えが浮かばない。それよりも今は、さよちゃんに何て謝るのかよりも、インターホンを押すか、このまま帰るかで悩んでしまっている自分が情けない。
「あの、うちに何か用ですか?」

 エレベーターホールから、40歳くらいのおばさんが現れる。
 先ほどの発言からすると、きっとさよちゃんのお母さんだろう。

 どうする? 「さよちゃんを登校拒否にした本人ですが、謝罪させてください」とでも言えばよいのか。
「あの、小夜子のお友達かしら」

 無言のまま困っていると、同じ学校の制服を着ているからか、お母さんから話を進めてくれた。
「はい、同じ学年の平井良太と申します。先生から高木さんの様子を見てくるように言われまして」
「そうなの、小夜子と同じソフトテニス部の方かしら。どうぞ、上がって行ってくださいな」

 俺から嘘は言っていない。新聞部の先生から様子を見に行くように言われたのは事実。
 さよちゃんが所属するソフトテニス部の顧問に言われた……と、お母さんが勝手に勘違いしただけだ。

 今の俺の心は後悔の念で満たされていて、これ以上余計な感情が入る余裕がない。
 とりあえず、小さなことでも自分を正当化して、心がパンクしないようにしなければ。

 お母さんが扉を開き、中へ招いてくれる。
「小夜子、ただいま。今、あなたの……」
「おかーさん、プリン買ってきてくれたー?」

 お母さんの声を遮り、プリンを求めるさよちゃんが扉の奥から現れた。